忍者ブログ
Sinogi‐Kiriha ブログ
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 双子の話


 昔から納得がいかなかったことがある。

「ショウちゃんはよく出来るわね~」
「月読も天照を見習った方が良いと思うぞ?」
 兄はよく褒められていた。
 自分はそんな兄とよく比べられた。
 自分より僅かに早く生まれただけの兄。

 ――兄は、どうしてあそこまで褒められるのだろうか?

 テストの点数で親に褒められていた兄がいた。
 そんな兄と比較された自分がいた。
 親がいない時、さりげなく兄に「何点取ったのですか?」と聞いてみた。すると、兄の口から出た点数は自分と同じものだった。
 それを知った自分は親にそのことを話した。

 褒めて欲しかった。
 認めて欲しかった。
 自分も、兄と同じように出来るのだ、と。

 しかし、親は何の反応を示さなかった。
 一瞬、自分の中の炎が揺らめく。
 それを無理矢理に抑えて、俺は笑顔を浮かべたまま立ち去った。

 何故皆兄を褒める?
 何故俺を見てくれない? 褒めてくれない? 認めてくれない?
 成績も、顔も声も、背丈も、何もかも“同じ”と言って過言ではないのに?
 褒めて欲しくて、認めて欲しくて、見て欲しくて
 こんなにも、こんなにも、俺は頑張っているのに……っ


 どうして誰も 俺を見てくれないんだ!?




 昔から不思議に思っていたことがある。
「ショウちゃんは偉いわね~」
「他の奴にも見習ってもらいたいな」
 自分はよく褒められていた。
 親に撫でられた記憶はたくさんある。
 周りの人達にも褒められた記憶も、たくさんある。
 だけど、

 ――弟が褒められているところを、一度も見た事がない。

 そんな筈はないだろう、自分の中で記憶をさかのぼってみても、それらしいエピソードに繋がるものが出てこない。
 昔、弟が「何点取ったのですか?」と聞いてきた時があった。正直に答えてみると、弟は驚いていた。
 聞いてみたら弟も同じ点数らしい。
「そうなんだ! じゃぁ、お前も父さんや母さんに褒められたんだな」
 何気なく、当たり前の事だと思って出た言葉に対して、弟がどんな表情を浮かべていたかは覚えていない。
 だが、「えぇ、貴方と同じように 褒められましたよ」と言っていたはずだから、笑顔だったのだろう。
 とても嬉しそうな、笑顔だったのだろう。そう思う。

 でも、なぜかアイツが、アイツの友達と話しているところを見た事がない。

「高原君、勉強教えてよ。」
 オレに勉強を教えてと頼んできた、弟と同じクラスの女子に聞いてみた。
「月読には頼まないのか?」
 その問いに女子は最後まで答えてくれなかった。


 成績も、顔も声も、背丈も、何もかも“同じ”と言って過言ではない。
 いつも笑顔を浮かべていて、穏やかで、平和主義者で、ケンカなんかしたくないと言っていた、優しい優しい、オレの弟。
 なのに、どうして?




「なぁ、月読」
 同じ勤務先で遭遇した弟に尋ねてみようと思った。

「お前って、親に褒められた事って あるよな?」

 兄は唐突に変な事をこちらに聞いてきた。
 その存在に対し嫌悪しか覚えない己の身体を押さえつけながらも、表面上は笑顔を浮かべて答えて見せた。

「そりゃ 勿論、ありますよ。 それがどうしたんですか?」

 笑顔で答えが来た。
 その答えにオレは安堵を覚える。

「……そっか、そうだよな! 悪いな、変な事聞いて。 じゃ、オレ授業あるから。じゃぁな!!」

 勝手に安心して、兄は笑顔で立ち去った。
 此方も笑顔で兄を見送る。
 その中には、激しい激しい嫉妬の炎が今も燃え盛っている。
「――バカな奴…」
 生徒も教師もいない空間で、ただ一人俺は低い声で呟く。

 ようやく理解した。
 “月”は、どう足掻いても“太陽”には及ばない。
 太陽の光を反射して、自分が光っているように見せている存在が、認められる“筈がない”。

 唇を少し噛んでいたようで、口元に紅い一筋が伝う。
 誰もいない空間。
 その目に宿る感情は非常に明確なものだった。
「あの野郎は何も見てねぇ」
 どこかの神話にある、月を追いかける狼の名の意味と同じ
「何一つ、見ちゃいねぇ……っ!!」
 憎悪が。
PR
この記事にコメントする
Name
Title
Color
E-Mail
URL
Comment
Password   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
TrackbackURL:
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
フリーエリア
最新コメント
[12/21 朔夜]
最新トラックバック
プロフィール
HN:
小慶美(シャオチンメイ)
年齢:
34
HP:
性別:
女性
誕生日:
1990/03/09
自己紹介:
創作とゲームの両立がなかなか
出来ない管理人

ジャンルはよろず、
とにかく気分で変わるそんな人
バーコード
ブログ内検索
P R
カウンター
アクセス解析
すぴばる

Template by Emile*Emilie

忍者ブログ [PR]